あと三日。あと三日でどうしろと?
目の前が暗くなる。どうやって副会長室を出たのかも思い出せない。
小童谷先輩、何やってんだろ?
確認すべく教室へ向かえば、不幸な事に不在を告げられる。
どこへ? 必死の思いで探し回り、やっとの思いで裏庭情報を手に入れた。
聞けば、山脇瑠駆真の姿もあったとか。
ひょっとして、説得しているの?
だがそこに、もう一つの情報。
大迫美鶴の姿も、裏庭で見かけた。
なぜ?
ひょっとしてあの人、小童谷先輩を妨害してる?
廿楽から受けた重圧が、緩の思考を極端に狭める。
思えば、小童谷先輩は自信満々だった。絶対に山脇瑠駆真をお茶会へ誘うと言っていた。
なのに、いまだに承諾させてはいない。
なぜ? 誰かが妨害しているとか?
誰が?
――――大迫美鶴。
考えてみれば、彼女さえいなければこんなことにはならなかった。そうだ。彼女がいたからこんな事になった。自分が廿楽に責められるのは、彼女が居るからだ。
大迫美鶴がいなければ、山脇瑠駆真は彼女に執着することもなく、そうすれば自分が義兄の恋路に協力するなどといった、無理な画策に倦ねる事もなかったのだ。
裏庭で目撃された、小童谷と山脇と大迫美鶴。ひょっとして、彼女が小童谷を妨害しているのでは?
あの人、表立っては疎ましがっているけど、本当は山脇瑠駆真と金本聡、二人を横に侍らせて優越感に浸ってるんじゃない?
そうだ。だってあんなにカッコいい男の人に言い寄られて、嬉しくない人なんているはずないもの。
愛していますよ
耳元に響く甘い囁き。切なく、優しく、緩を捕らえて離さない。
求めに応じてくれるのなら、それが幻影であろうと亡霊であろうと、もはやそんな事はどうでもいい。そこまでのめり込んでしまうほどの、まるで麻薬のような甘美な至福。
それがこの現実世界で、しかも二人の男性から囁かれる。普通なら手放したくはない。
緩ならそう思う。
そう。どんな手段を使ってでも、手元に留めておきたいと思う。
だからきっと大迫美鶴も―――
緩の住む、狭い世界の限られた概念。
あの人も、本当は山脇瑠駆真を手放したくはないのだ。だからきっと、私たちを妨害しているのだ。
「私を、怒らせたいの?」
廿楽の重圧が緩を責める。
今もきっと、小童谷先輩を妨げようとしている。そうだ、きっとそうに違いないっ!
肥大する妄想。
「なんとかしなさいよっ!」
廿楽の茨が責めたてる。
裏庭に行かなくては。
なんとしても、大迫美鶴を止めなくてはならない。
もう緩に、周囲は全く見えていない。ただ一心に、裏庭を目指す。
大迫美鶴を止めなくてはっ!
「小汚い会計事務所のバカ娘が、軽々しく声など掛けてこないでよ」
また周囲に蔑まされる。
「顧客に国会議員? それはまあずいぶんと質素な事務所ですこと」
野望や欲といったものにあまり執着しない父親。その謙虚な仕事ぶりは、華やかな世界ではあまりに非力。唐渓という世界では、上を目指さなければ貶められる。あっという間に虚仮落される。
このままでは、またあの頃の生活に戻ってしまう。
なんとしても、大迫美鶴を止めなければ。でなければ、緩は唐渓では生きていけなくなる。
私は負けないっ!
午後の裏庭。二人の少女の視線がぶつかる。
渾身の力で美鶴の腕にしがみつく緩。
ここで離したらすべてが終わる。
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